- 復興<災害>—阪神・淡路大震災と東日本大震災
- 塩崎賢明
レビュー
2015年1月17日で阪神・淡路大震災から20年、東日本大震災から3年10ヶ月6日が経ちます。
大地震と大津波の自然災害で多くの被害があり、原発事故は人工災害として今でも多くの方の頭を悩ませ、二次被害が震災関連死という形で及んでいます。
それに加えて、命が助かった方が様々な支援を手がかりに自分自身の復興を成し遂げようという過程において、制度によって分断され一部では健康被害も出る住まい環境があり、災害とはまた違った特異にな状況に陥っています。
本書はそれを復興という名の災害として、巨大災害に対する備えの一助となるよう警鐘を鳴らしています。
阪神・淡路と東日本の現状を紹介し、行政主導の住宅供給(仮設住宅→災害公営住宅)や、復興の過程における情報や手続きの混線化など、政府の枠組みを丁寧に解説しながらも生活者目線に立った観点での語り口となっています。
本書の中で特に注目したいのが、過去の大災害の教訓が東日本大震災に活かされているか、そして東日本大震災での好例や教訓となることは何か。
[仮設住宅]
全国の災害救助実務担当者をあつめる会議で配布される「災害救助事務取扱要領」での教訓として
“一戸建て又は共同住宅形式など多様なタイプ”
“家族構成を勘案し異なる間取り・仕様”
“長期化を想定した工夫”
“暑さ・寒さ対策を費用に含む”
東日本大震災では、長期利用を踏まえた木造仮設住宅とみなし仮設住宅が多かったため住宅の質が高く維持された。しかし同じ被災者でも仮設住宅に差ができてしまったことや、誰がどこに住んでいるかわからないという課題がある。
[災害公営住宅]
筆者による阪神・淡路大震災の教訓として
“単調で機械的な安易な設計は避けコミュ二ティ保全を考えた低層で小規模な住棟を取り入れるべき”
“従前のコミュニティが保持できるような入居管理方式を取る”
“まちづくり事業と災害公営住宅の建設を別個に行うのではなく自力再建や個人の移転建設と組み合わせ、従前のコミュニティが隣接して形成されるように配置する”
“被災者の生活様式・習慣などに配慮して、きめ細かい計画・設計を行う(木造の接地型住宅が好ましい)”
東日本大震災での好例として、仙台市のコミュニティ入居が取り上げられている。
[復興まちづくり]
筆者による東日本大震災の課題として
“津波浸水危険の評価そのものに意見が分かれる上、本来であれば、十分な環境アセスメントがなされなくてはならない大事業である”
“移転先の住宅地には造成費を合わせた住宅整備費用がかかり、公営住宅などを含め将来的にその住宅地が持続できるかどうか”
“移転先で自力再建する上で土地の価格が前より高くなる地域がある。また移転先の宅地規模は制限が設けられている”
“復興まちづくり事業が実現するには長い時間を必要とし、個々人の生活問題が発生してくるため再建意向が変化してくる状況がある”
[全国防災]
筆者による東日本大震災の教訓として
①津波の観測、監視体制、避難行動の体制整備
②避難を容易にする地域づくり
③ハザードマップなど防災意識向上
④医療情報連携、救助など被害拡大防止
⑤これらと一体的に取り組む必要不可欠な施設整備
ここに書ききれないが、数字的根拠を基にした信頼性の高い一冊である。
ただ最後にこんな提言を掲げている。
火事に備えて消防組織や消防庁があり、戦争に備えて自衛隊や防衛省があるように、災害に備えて「災害・復興省」といった組織があってしかるべきだろう。
最後の提言は緊縮財政での観点からするといささか大胆に聞こえてしまうが、政府が災害救助・災害復興を今後も行っていく上で統括する所管が必要であるかもしれない。
ただ筆者の言う「被災者の生活様式・習慣などに配慮する」「健康で文化的な生活を保障する」ためには、常日頃から地域の住民と行政が住まい環境において何を大切にしているかを共有していくことが、災害時における政府との協働をスムーズにしていくのではないだろうか。
レビュー:豊嶋純一
- 項 数:240ページ
- 仕 様:17.2 x 10.8 x 1.2 cm
- 発行日:2014年12月20日
- 出版社:岩波書店
- 定 価:780円(税別)