- アメニティ・デザイン : ほんとうの環境づくり
- 進士五十八
レビュー
アメニティー【amenity】
①快適さ。喜ばしさ。 ②都市計画がめざす居住環境の快適性。数量的に捉えにくい歴史的環境や自然景観などにも配慮した総合的な住み心地の良さ。 ③生活を快適にする施設・設備。文化施設。 ④ホテルなどの設備や調度の総称。また,客室内の備品の総称。
(大辞林)
広義に使われる言葉になったのは、外来語を用いた商業サービスの展開のためだと考えられますが、本書では都市や郊外における揺ぎない自然環境との付き合い方を示唆したものです。日本・海外問わず様々な論文からフレーズを参照していたり市民目線での着眼点は、文章の書き方としても参考になる一冊です。
特に強調しているのが「水の流れ」で、このような記述があります。
「アメリカの景観研究者エルビン・ズーベの論文に『どんなタイプの景観写真でも、水面をモンタージュで重ね合わせると、必ず景観評価が高まる』(中略)すばらしい都市、美しい都市。その別名は『水の都』であったわけだ」 「子ども対象の『これからのわが街・わが公園』募集の絵をみると、例外なくそこには水のある風景が描かれていることもあげられる。このように、エデンの園や極楽浄土の昔から、ドライな現代っ子にいたるまで、水のある空間、水のある風景は、時代を越えたアメニティ環境であるということである」
そして都市部だけでなく農村の田園について、
「ドイツの植生学者チュクセン教授が、日本の水田をみて『ガルテン(garten庭園)だ』と言った(中略)イギリスのスコット・レポートには『農民たちは食糧生産のほかに、知らないうちに国土景観の庭師の役割をはたしている』と書かれている」
といった農に対する注視が多くあり、農を通じて土や生きものにふれあう農体験を推奨しており、“百姓(トータルマン)”という最高の生き方にこれからの社会のヒントがあると言います。 今でいう“里山ライフスタイル”がその答えに近いかもしれません。その代表的な風景として富山県の砺波平野の散居村に美しいスギの屋敷林が紹介されていて、仙台平野でいうところの居久根のことですね。
本書の内容はアメニティのある“意味・考え方”と、“方法”としてユニーク公園、都市社会と農地、エイジング都市、アメニティ・デザイナーたちの略歴といった事例が紹介されています。 その中の1つにニューヨークのセントラルパークが紹介され、誕生までの経過と公園づくりの考え方が書かれています。
「1853年から1856年にかけて土地の取得がなされ、1857年には公園所長が任命された。数多くの志願者のなかから34歳の若きオルムステッドが任命(中略)セントラルパーク設計については公開の『競技設計』とすることを公告した」
<採用された設計の特徴> 1.横断道と園路の立体交差による歩車分離で園内景観の統一化を図る。
2.直線格子の人工都市と対照的にイギリス風景式を模範とした曲線の園路網と樹林形成により自然性や田園性を都市に導入する
3.十分な手入れをした芝生地や十分に厚い境栽によって、心から安らぎ得る静かで楽しい園地を提供する
4.通景線(ビスタ)としてのモール、噴水や彫刻のある晴れやかなテラス、高みからの眺望のある展望台など自然を引き立てるのに適度な人工的アクセントを導入する
5.クリケットや乗馬、ランニングのためのアクティブ・スポーツを許容する施設を適度に配置したこと
セントラルパークは都市の市民生活上はもとより都市計画上も大成功をおさめたと紹介されています。 デザイナーの功績や事例のサクセスストーリーに対する記述もありますが、本書に共感する重要な記述は「誰もがアメニティ・デザイナー」に書かれた内容です。
「より好ましいのは、一般の市民や農民、行政マンなど、環境づくりには素人のひとでもよい。どんな立場のひとでも、私たち人間の生活と自然など環境との本来的な関係を踏まえて、そのより望ましく豊かな共存関係と、そこにおける“アメニティ質”の追求がこれからの社会全体の目標となることを自覚し、アメニティ環境の実現に向かって一歩を踏み出してくれるなら、それでよい」
- せんだいセントラルパーク構想
レビュー:豊嶋純一
- 項 数:299ページ
- 仕 様:22 x 15 x 2.2 cm
- 発行日:1992年6月25日
- 出版社:学芸出版社
- 定 価:2,800円(税別)