- 図説|生活空間と緑〜緑の環境設計データブック〜
- 米国内務省国立公園局・(財)米国造園家協会 編 G.O.ロビネッティ 著 三沢彰 訳
レビュー
■緑の効用を数量化する試み〜「なんとなく」を科学する
例えば、
「人間の生活環境にとって、緑は大切」
という、「なんとなく」の共通認識はあったとする。
しかし、それが何故大切なのか、という学びや知識は、多くの場合は狭い範囲で、かつ、散り散りになっているのではないかと思う。
本書では、緑の効果について多角的・網羅的に検証されており、その上で、どのように設計していくべきかが示されている。「なんとなく」を科学する。その重要さがここで伺える。
本書のタイトルに「図説」とある通り、それらは図によってわかりやすく説明される。
緑と生活環境を論じるにあたり、本書には「価値」または「緑の価値」という語句は多用されていない。しかし、「利用」は多く使われ、これと対になるように、緑の効果については、前述の通り科学的に分析・検証されている。
「価値」という語句は、本来あまりにも手前勝手で、あやふやなものなのかもしれないと、本書を読みながらふと考えた。
巻頭にはこんな言葉が寄せられている。
“人類の生存には自然が大きく係っているが。が、それにもかかわらず、自然界におけるわれわれの生存条件を明らかにさせる方法や、特にわれわれの生活に関係の深い植物の生存に関する点についての理解が不足している。”
また、原書は1972年に出版(日本語訳書は1990年出版)されているとあって、以下のような記述もある。
“植生がわれわれの体験する景観や快楽にとって主体的な役割を担う地域である公園は、灰色の現代社会に残っている唯一の緑空間であり、むき出しの群衆でごみごみした騒音の中の悪環境における美しいオアシスでもある。”
■太陽輻射のコントロール装置
『仙台平野みんなの居久根 Hand Book』では、居久根の効用と太陽輻射について、本書から以下の箇所を引用した。
“高木、灌木、芝生を含めた地被植物などは、屋外における太陽輻射の調節の最高の装置である。
これは、過去においてはも植物の機能的利活用法の中で重要なものであったし、現在でもそうである。そして、それは太陽輻射調節を通年で必要とするような厳しい熱帯性気候においても、夏期のみに必要とする温帯性気候においても同様である。
樹木は、単植または群植することにより日陰をつくり、あるいはいろいろな表面から反射された輻射を遮断することによって、太陽輻射を直接調節するために利用されている。(中略)
太陽輻射を遮断するために利用される植物は、太陽光線を完全に遮断する場合もあり、部分的に透過する場合もある。(中略)
太陽の輻射の一部は、枝葉を通過する時に吸収され、反射され、あるいは透過する。
太陽光線は、比較的群葉の少ない落葉樹木の葉を通して透過される。そして、太陽輻射を遮る植物の下側に適度な涼しさが生じるのである。“
レビュー:岡井 健
この本を参考にしたプロジェクト
仙台平野「みんなの居久根」プロジェクト
プロジェクトのイメージづくりの段階で環境デザイナーの廣瀬俊介氏から紹介いただいた一冊です。2016年度に制作した『仙台平野みんなの居久根 Hand Book』を編む際に再び読み直しました。
- 項 数:136ページ
- 仕 様:30 x 21 x 1.6 cm
- 発行日:1990年3月20日(原本1972年発行)
- 出版社:ソフトサイエンス社
- 定 価:8,100円(税込)