- シビックプライド―都市のコミュニケーションをデザインする
- 伊藤香織+紫牟田伸子 監修
レビュー
シビックプライドとは何か?聞き慣れない言葉ですが、日本のまちづくりでしばしば出てくる地域の誇り灯、まちへの愛着灯、おらがまち灯といったところが意味合いとして近いでしょうか。
【シビックプライドは、愛である。】産業革命の大混乱(よそ者の集まり)の後に工業と交易で富を得た市民階級が力を持ち始めたヨーロッパで生まれた概念と書かれています。
本書の中では近年のヨーロッパで、広告、Web・映像、ロゴ、ワークショップ、都市情報センター、フード・グッズ、イベント、公共空間、景観・建築の8つのデザイン観点からシビックプライドの醸成に成功している事例を紹介しています。そのうちフランス・ボルドーは仙台と類似点があるので紹介したいと思います。
フランス・ボルドーは仙台と同様に、かつては川を象徴として中心に据えた都市で、近年まで「眠れる都市」として静かにたたずんでいました。近年になるとフランスの地方分権化が進み、ボルドーのアラン・ジュペ市長は「市民に開かれた公共空間」を唱えLRT導入や広場整備などの都市再生プロジェクトに取り組み、
『私たちはボルドーを愛するべきなのだ!』と訴えました。
整備された公共空間では「ワイン祭」や「川の祭り」といったまちの資産をより一層身近に感じることができるフェスティバルが開催され、市民生活の舞台となり市民の誇りとなっています。そしてプロジェクト発足のきっかけをつくったのが、アルカン・レーヴという建築センターのワークショップや教育プログラムによる市民への呼びかけだと言います。
「誰もが体験できる公共空間は、ボルドーのまちの魅力を伝えるメディアのように、人々の心を揺さぶり、それぞれの誇りを形成していく。」
本書では最後に「シビックプライドの育て方」を提案しています。
[誇りの種を探す][誇りの種を植える][誇りの芽を育て世話をする]を循環させる【シビックプライド・マネジメントサイクル】を提唱しています。
地域活性化を目的にしたイベント・フェスティバルなどが一過性で終わりがちなのは、このサイクルの全容を事前に把握することができていないからではないでしょうか。
都市のプロジェクトは、誰がどのように関わってどのように進めているのかが非常に見えづらいものですが、本書では成功事例のプロセスを中心に取り上げており、日本でのまちづくりにおいてもとても重要な内容と言えます。
仙台でも広瀬川周辺をはじめとした公共空間の魅力を伝える「せんだいセントラルパーク」という取り組みを、都市デザインワークスが地域・市民と一緒に推進しています
レビュー:豊嶋 純一
- 項 数:221ページ
- 仕 様:A5判
- 発行日:2008年11月28日
- 出版社:宣伝会議
- 定 価:1,900円(税別)