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ブックレビュー

Book Review

まちづくりに関する書籍をわかりやすくご案内します

常識の天才 ジェイン・ジェイコブズ
G.ラング・M.ウンシュ 著  玉川英則・玉川良重 訳

レビュー


社会の在るべき姿を主張してきたジェイン・ジェイコブズの生涯をかい間見ることが、我々にこの問いを考えるキッカケを与えてくれるかもしれません。

常識とは何か

ジェイン・ジェイコブズ(1916-2006)は、アメリカで道路計画などの都市計画に対する反対運動の先頭で戦ってきた女性文筆家です。本書は都市理論の教科書と言える『アメリカ大都市の死と生』を書いた彼女の、小うるさい女の子と揶揄された幼少時代から、結婚・出産を経てコミュニティリーダーとして運動を重ねていった生涯を追っています。

その中でもとりわけ関心を持たされるのが、彼女の理論が世界中に知れわたることになっても離れることのなかったニューヨークでの暮らしです。

ある冬の夜、彼女は、どこから現れたのかわからないようなバグパイプ奏者が群衆を引きつけているのを見ました。階下の歩道にいた何人かがハイランド・フリングを踊り始めました。自宅の窓から見ていた人々が拍手喝采していました。ジェインは、通りが昼夜問わず安全なのは、それがいつも使われているからなのだということを悟りました。

ジェインは客観的に都市を観察をするだけでなく、実際に都市に暮らす二児の母として近隣地区のコミュニティの中にいました。今で言う“ママ友”が基本となって、自分のまちの行政の計画に対する一般的な市民の目で訴える運動に発展していったのです。

彼女は、自身の近隣地区の友達のネットワークから、4車線の幹線道路をワシントンスクエア公園のすぐそばにまっすぐ通すという計画を知りました。

全近隣地区のビレッジ住民は、ジェインを委員長として「歩道救済委員会」を結成しました。彼らは、請願書を店舗に置き、歩道に沿ってテーブルをセットしました。 請願書にサインをするように通行人に求めました。

そんなジェインも息子の徴兵を避けるために、ニューヨークを離れカナダへ引っ越しました。トロントで生涯を終えたジェインですが、ニューヨークへの愛着は失うことがなかったのです。

彼女は、カナダの市民になることを選択しましたが、合衆国の友人たちや家族と交際を続けました。 彼女のかつての近隣地区が直面している問題に関わりを持ち続けるために、ジェインは、ウエスト・ビレッジ委員会ニューズレターを予約購読しました。

いささか反対運動が主立った活動ですが、既存の町を保全しつつ活かしていくことの利点を発見した、ジェイン・ジェイコブズの、常識を問い続けたであろう生涯が目の前に浮かび上がる一冊です。

『都市計画とまちづくりがわかる本』にも紹介されているジェイン・ジェイコブズが言うように、「人々が築き上げた多様な人的ネットワークは都市に不可欠の『社会資本』である」これは東日本大震災からの復興の過程で培ってきたコミュニティ、その背景にある震災前からのコミュニティが、大きな財産であることを示唆しているのではないでしょうか。

レビュー:豊嶋 純一

この本を参考にしたプロジェクト


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  • 項 数:159ページ
  • 仕 様:A5版
  • 発行日:2012年6月13日
  • 出版社:鹿島出版会
  • 定 価:2,600円(税別)