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都市デザインワークスからのお知らせです。

ブックレビュー

Book Review

まちづくりに関する書籍をわかりやすくご案内します

都市経営時代のアーバンデザイン
西村幸夫 編 高梨 遼太朗,‎ 黒瀬武史,‎ 坂本英之,‎ 窪田亜矢,‎ 阿部大輔,‎ 宮脇勝,‎ 野原卓,‎ 鈴木伸治,‎ 柏原沙織,‎ 楊惠亘,‎ 鳥海基樹,‎ 中島直人,‎ 岡村祐,‎ 坪原紳二 著

レビュー


行政が策定する計画書でしばしば、最後の方にPDCAサイクルのことが決まり文句のように書かれているのを見かけます。業務マネジメントに“各々で”取組む姿勢を表明しているのでしょう。ただ都市の縮退を考える時代、その都市その地域ではさまざまある分野を“統合的に”マネジメントすることが必要不可欠です。

人口減少、空き家や空き地、産業衰退、災害・原発避難、持続可能性、文化経済、多様性、地域社会、アート協働、生態系、、、、、

どんな戦略を持ち どんな解を出しながら どんな都市を目指すのでしょうか?

ヒントとなるのは、文化の力・実感の力と指摘する本書は、長年継続して海外の都市計画やアーバンデザインの動向を研究するグループが取りまとめた先進13都市の取組事例集です。巻頭カラーで見やすいビジュアル編と簡潔に紹介された論述編に分かれているので、ペラペラめくりながら行ったり来たりしてボロボロになるくらい読み込んでいきたい一冊です。


本書には日本・台湾の事例やニューヨークの最新プロジェクトも紹介されていて興味深いのですが、私が着目したのはカタルーニャ独立運動で沸騰しているスペイン・バルセロナで、行政が定期的に出版するプロジェクト集をもとにエポックを示した丁寧な解説は、地方自治を考える上で大変参考になります。

1979〜1986年 民主化後の初期都市再生政策

当時の市の都市計画局長ボイガスの小論文 “Per una altra urbanitat”(=もう一つの都市性へ向けて) の要旨を整理すると以下のようになる。

  • プランからプロジェクトへ
  • 公共空間の重視
  • 都心の衛生化を進め、郊外をモニュメント化する
  • 界隈レベルのニーズから開始する
  • 市民に響く再生政策

住環境のうち、「図」としての建造物だけでなく、「地」のオープンスペースを重点的に改良していくというアプローチが特徴的である。

1986〜1992年 オリンピックを契機とするインフラ整備

オリンピック事業のマスタープラン “La Nova Centralitat”(=新たな中心性)

市内のみならず近隣市町村を含めた大都市圏レベルでのインフラの改善が進んだ。オリンピック事業が成功した一つの要因に、戦略的に指定された重点整備区域と都市内の空白地帯(工場跡地等)を空間的にうまく接続させたことがあげられる。

1992〜2000年 アーバンデザインの成熟期と投機的野心の萌芽

「第二のリノベーション」がオリンピック後のスローガンだった。

海岸線に向けて広がる旧工業地域は疲弊が深刻で、遊休地も多く、都市機能上ほぼ意味を失っている状況にあった(バルセロナの北東エリア)。第三期には、このエリアの再開発を進め、既成市街地との統合を図ることが命題であった。

2000〜2004年 バルセロナ・モデルへの疑念とゆらぎ

20世紀末から2004年あたりまでの時期の特徴として「バルセロナ・モデルの商業化」を挙げている。

都市の再生機能を牽引してきた旧工業地域ポブレウの面的なコンバージョンが20世紀末から本格的に取り組まれた。創造産業の導入と育成が地区再生の切り札であった。

2004年〜現在 ポスト・都市再生期のアーバンデザインオリンピック時のカリスマ市長であったパスカル•マラガイが州の首相となり、空間再生と社会的包摂を主な眼目とする “Llei de Barris”(=界隈法) が制定されたのが2004年であった。

若干41歳(当時)のアダ•コラウがバルセロナ史上初の女性市長の座についてから、公営住宅の整備や観光地化抑制のプランづくり等、社会的利潤の追求をより前面に押し出した政策が展開されつつある。

 

さまざまな開発をトップダウンで展開してきたバルセロナですが、一貫して大事にしてきたのは「空間の質」であり、とくにプロジェクトの対象となっていたのは歴史的市街地だと書かれています。その手法として「空隙」をつくり多孔質化、つまりスポンジのような都市になっていきました。近年ではその公共空間を活かす取り組みが始まっているそうです。

NPO組織 “Recreant Cruilles”(=まちかど再生) は、拡張地区において生じたかつての修道院跡地を舞台に、近隣界隈の児童の遊び場や都市農園としてゲリラ的な土地利用を展開している。いずれも一時的な使用のみ許可されている点が特徴的で、そこで試されたさまざまなアプローチがその後のまちづくりの大きなヒントになることが想定されている。


このように本書には、非常に参考になる具体的な取組みまで掲載されています。

仙台でもさまざまな施策が展開する中で、一貫して大事にしてきた価値を見逃さないようなアーバンデザインが実践されるように、文化の力・実感の力を信じていきたいところです。

 合わせて読みたい本

  • 『都市の風景計画–欧米の景観コントロール 手法と実際』
  • 『都市美–都市景観施策の源流とその展開』

レビュー:豊嶋純一

この本を参考にしたプロジェクト


  • 項 数:224ページ
  • 仕 様:A4版
  • 発行日:2017年3月6日
  • 出版社:学芸出版社
  • 定 価:3,700円(税別)