まちを共に創る

南蒲生地区復興まちづくり

津波被害を受けた仙台東部の農村集落「南蒲生」は町内をまたぐ災害危険区域の線引きの変更により、移転、現地再建、移転希望と再建の手だてが“三者三様”である。町内会と市を“つなぎ”、議論を重ね復興計画の策定と実現に向けた活動を支援している。

南蒲生地区復興まちづくり

津波被害からの復興にむけて

 南蒲生地区は、仙台東部に位置し居久根(いぐね)と呼ばれる屋敷林に囲まれた典型的な「居久根集落」である。震災前の人口は約290世帯900人、うち約80世帯が農家で、中には15代目を数える家系もある。東日本大震災では4mを超える津波により、多くの尊い命と住まいを失い、居久根農地やなども甚大な被害を受けた。

津波被害からの復興にむけて

会議やワークショップ、報告会等は50回

 仙台市震災復興計画(平成23年11月策定)では、地区を割るように災害危険区域の線が引かれ、区域内の防災集団移転事業の対象(約30世帯)と、区域外(約260世帯)のうち現地再建と移転再建の希望世帯が混在する状況となった。それぞれ支援内容が異なり、個々に事情や不安を抱えながらも、地域一丸となって復興に取り組むため、平成24年1月に町内会の下部組織「復興部」を新設。それぞれの立場の“部員”20名が中心となり、「南蒲生復興まちづくり基本計画」の検討をスタートした。

復興部は、全世帯アンケートの結果や住民ワークショップの意見を参考に協議を重ね、南蒲生復興まちづくり基本計画の原案をまとめた。同年12月、町内会が原案を承認し、仙台市に提案するまで、会議やワークショップ、報告会等は50回を超えていた。

 都市デザインワークスは、仙台市が派遣するまちづくりコンサルタントとして、復興部の立ち上げや住民同士の話し合いを支援し、仙台市と調整しながら住民の声を反映した計画づくりを導いてきた。具体的には、毎週開催される復興部会議や住民ワークショップを進行。そこで出された意見はもちろん、南蒲生地区の歴史や魅力資源、アンケート結果分析などを整理した資料を提示し、住民が客観的な判断ができるよう心がけてきた。

会議やワークショップ、報告会等は50回

「南蒲生復興まちづくり基本計画」の概要

 最終的に平成25年3月に策定された「南蒲生復興まちづくり基本計画」では、居久根に代表される田園文化を後世に継承しつつ、新たな価値観や方法を取り入れることを目指し「杜の都の田園文化を受け継ぐ『新しい田舎』」を10年後の目標として掲げた。この「新しい田舎」を探求するために、具体の事業・取組みを「3つの重点プロジェクト」に整理している。

①安全・安心な暮らしができる環境づくり
 各種堤防(海岸堤防、海岸防災林、河川堤防、盛土道路)や津波避難道路などの早期整備を行政に要望するとともに、まちづくりと連動した津波避難施設の具体的な性能や内容等について地域防災計画などに反映し、地域と行政が協働で実現できるよう協議を続ける。また、日常から自助・共助の意識を高めるため避難訓練や住民交流イベント等に開催するなど、住民同士の「顔の見える関係」づくりを積極的に進める。

②次代につなぐ居久根のある景観づくり
 仙台平野の原風景である居久根を、個人が所有・管理する屋敷林から、杜の都仙台の貴重な景観・環境資源として捉え直し、新しい価値観・仕組みにより多様な主体の参加を得ながら「みんなの居久根」として再生・継承する。そのため、歯抜け的に発生する移転跡地の活用も視野に入れ、旧街道沿いの家並みを軸とした「居久根のある景観計画」の策定に取り組む。

③南蒲生らしさを活かした産業・交流づくり
 南蒲生にある多彩な資源(農地、海浜、七北田川、貞山堀等)を積極的に活用しながら、6次産業化を目指し、行政や企業と連携しながら具体的に検討・実施する。また、それらを介した交流を促進し、さらに交流を通じて南蒲生の魅力を発信することで、新たな居住者の獲得につなげていく。

「南蒲生復興まちづくり基本計画」の概要

計画の実践に向けてサポートを継続中!

 平成25年1月からは、地域主体で具体的な検討・実践が始まっている。徐々に増えつつある現地再建世帯の情報の収集と更新を進めると同時に、災害時要援護者への共助方法を検討するなど「安心・安全な環境づくり」を最優先で進めている。「居久根のある景観づくり」では、若手有志グループが中心となって、NPOの支援を得て植樹を行いつつ、居久根の勉強会や往時の集落の写真を眺めながら「みんなの居久根」のイメージづくりを進めている。また、「産業・交流づくり」では、外部への情報発信の強化や、地区内に整備された大型養液栽培施設との連携を模索している。

 都市デザインワークスは、スタートしたばかりの南蒲生地区の復興まちづくりを継続してサポートしていく。随時情報発信していくので、南蒲生の復興を気に掛け、関わりを持つ方が増えるきっかけとなれば幸いである。

計画の実践に向けてサポートを継続中!

関連情報

期間:2012.1~継続中
場所:仙台市
関連リンク:岡田復興まちづくりブログ
関連リンク:リアルふっこうボイス第21回
メディア掲載:「建築知識4月号」に掲載されました。(2012年3月20日)
当法人が支援している南蒲生復興まちづくりが、「建築知識4月」(2012年3月20日)に掲載されました。関連記事はこちらからダウンロードできます。※発行者である株式会社エクスナレッジ様の承諾を得ています。