宮城県美術館の現地存続を望みます
宮城県が10の公共施設を再編しようとしています。
宮城県美術館は宮城野原に移転して県民会館と集約・複合化される案となっており、
1月31日までに意見の提出が求められています。
せんだいセントラルパーク構想を推進してきた当法人は、広瀬川周辺の文化的シンボルエリアの重要な拠点として、
美術館の現地での改修・増築を望んでいます。
県有施設等の再編に関する基本方針(中間案)12〜13ページ
⑦宮城県美術館【再編方針】
移転新築の場合,現施設が抱える課題解消に向けて,抜本的な取組が可能になると考えられるとともに,長期休館が不要となる等といった利点もある。
これらの利点や集約・複合化による効果等を総合的に考慮し,宮城県美術館については,仙台医療センター跡地(仙台市宮城野区)に移転することとし,宮城県民会館及び宮城県民間非営利活動プラザ(みやぎNPOプラザ)と集約・複合化する(第4章の1を参照)。
なお,移転する場合でも,宮城県美術館のリニューアルに係るこれまでの検討を踏まえ,「宮城県美術館リニューアル基本構想」及び「宮城県美術館リニューアル基本方針」等で示された宮城県美術館の目指す姿やコンセプト等を十分に尊重し,実現を図る。
の部分に対し、次のような意見を提出しました。
宮城県美術館を移転新築とする再編方針に反対であり,以下に書き換えるべきである。
【再編方針】
宮城県美術館は,文化財となる貴重な美術品の保管・展示と教育普及を基本的使命とする施設であり,その施設自体も著名な建築家による周辺環境を包含した芸術作品である。敷地内には世界的に著名な芸術家が現在の環境にインスピレーションを得て制作した環境造形作品や多数の野外彫刻と一体となった屋外展示空間を擁している。これらは県の美術施設としての役割を果たすために必要な施設機能であり別の場所で代替できない固有の価値を有している。また,現在地は宮城県域を超える仙台藩を治めた伊達氏の居城・仙台城跡(国指定史跡)に近接し,杜の都のシンボルである青葉山(国指定天然記念物)や広瀬川に面しており,宮城の地域性・精神性を最も含蓄した環境の一部となっている。
このため,宮城県美術館は,移転などによって施設が有する存在価値や地理的価値を毀損する恐れが極めて高いことから,今回検討の対象とした他施設との集約等に適さないため,平成30年3月に策定した「宮城県美術館リニューアル基本方針」に沿って現地にて改修・増築を行う。
理由1:宮城県美術館の現在地は宮城・仙台藩の地域性や歴史・文化など美術と親和性の高いコンテンツとの相乗効果を発揮しており,移転によりその価値が失われるため
宮城県美術館の来館者数は198,654人(2018年度)と人口規模の近い県と比較しても集客力は高い方である【別添資料1】。これは美術館のこれまでの運営努力の賜物であるとともに次に示す周辺施設との相乗効果によるものと推察される。現在地周辺には宮城のルーツを示す国史跡の仙台城趾や博物館などに985,840人が訪れており(2018年観光入込客数),約300m先にある最寄駅(地下鉄国際センター駅)に隣接する仙台国際センターと青葉山交流広場には472,396人(2017年度)が訪れるなど,県外から宮城を初めて訪れ,地域の歴史・文化に対する好奇心や探究心の比較的高い来訪者が多いと考えられる【別添資料2】。そのような人々を誘引する魅力が宮城県美術館のコレクションや外部環境に備わっており,地域に根ざした美術館としての役割を果たすとともに周辺施設との相乗効果やシンボルエリアとしてのブランディングに貢献している。
他方,宮城野原のスタジアムや陸上競技場,想定されている県民会館大ホールなどは,来訪者が比較的高額な対価を支払ってエンターテイメントとして享受する部類の施設であり,相応の支出を伴うことにより個人の趣向が限定的になる傾向が高く,美術館との相乗効果の想定は非常に困難である(数千〜万円かけて野球またはコンサートを楽しむ前後にまた千円相当を支払って美術館に入る割合は少ない)。
また、宮城県民会館の大ホール利用者数は216,255人(2016年度)であり,美術館と同等の集客力がある。宮城県のこの規模の美術館とホールの立地に関しては,それぞれ異なったターゲットを想定し,県民サービスはもちろんのこと他県や他地方,インバウンドをより多く取り込むことを目指し,それぞれにとって最も価値が高まる施設立地により文化芸術の振興・継承の拠点とすることが望ましい。
理由2:宮城県美術館の建物の芸術的価値が高いため
宮城県美術館の建築および外構,周辺環境も含めた芸術作品としての価値の評価は,日本建築学会東北支部から2019年12月10日に県知事宛に提出された「宮城県美術館(建物・外構等)の保存活用に関する意見書」【別添資料3】に詳述されており,当法人も強く同意する。
理由3:宮城県美術館の建物は近い将来文化財となる宮城の観光コンテンツの有力な資源であるため
世界におけるモダン・ムーブメントの旗手,建築家ル・コルビュジエの建築作品群は世界遺産に登録されている。宮城県美術館はそのコルビュジエの直弟子であり,日本におけるモダン・ムーブメントを牽引した建築家前川國男の設計によるものである。国内では前川國男が設計した建築物を文化交流拠点として,近代建築の観光資源化を促進,需要を創造するため「近代建築ツーリズムネットワーク」が2016年に設立され,現在9自治体が参画し様々な取り組みが行われている。また、モダン・ムーブメント建築の記録と保存を目的とした「DOCOMOMO(International Working Party for Documentation and Conservation of buildings, sites and neighborhoods of the Modern Movement)」という国際組織の日本支部,DOCOMOMO Japan が2000年に設立され,登録件数が年々増えている。宮城県美術館は2020年オリンピック以降も年を重ねるごとに,インバウンドを惹きつける強力な宮城固有の観光資源の一つとなり得るものである。
理由4:宮城県美術館の建物と外構,環境に合わせた屋外彫刻作品など環境全体が美術施設としての役割を果たしており,その芸術的価値も高いため
前庭に立つ白亜の列柱は,世界的環境造形作家ダニ・カラヴァンによる現在の環境にインスピレーションを得て制作された環境造形作品<マアヤン>であり,日本における代表作品である。また,多数の作家の野外彫刻11点を擁する彫刻庭園<アリスの庭>もまた建築と外構と彫刻が融合した空間である。これらは美術館としての役割を果たすために必要な施設機能であり,宮城県美術館のアイデンティティといえるもので,移転や集約・複合化が不可能である。現在の建築と外構の環境を丁寧に保全することが価値を継承する唯一の手法である。
理由5:移転により地震による被害リスクが高まるため
移転新築が想定される仙台医療センター跡地は長町・利府断層の直近であり,仙台市地震ハザードマップの建物想定被害分布【別添資料4-1】,液状化危険度【別添資料4-2】のいずれにおいても,現在地より大きく悪化する。国民の文化財を長期間保管する使命を帯びた施設においては現在地の方がふさわしい。
舞台芸術や美術などの文化振興において,県を代表するホールや美術館が宮城の地で果たすべき役割について,社会状況を踏まえて将来どうあるべきか,どの程度予算をかけるべきかという文化政策としての検討が先に必要である。土地があり,今なら国からお金が出るから,他の一般的な施設と面積の数字を並べて統合・縮小するというのは宮城県の将来に価値をもたらすことに寄与する行為ではなく,結局はお金という現時点の評価による操作にすぎない。今,数字を減らしても将来にわたってもたらされる価値が減ずれば意味がない。この検討に適する一般施設もあるが,すべてを貨幣価値によって結論を導くならば,現在の美術館とその外部環境が有する有形無形の文化的・歴史的・地域的・精神的な価値を数字に置き換えてから比較検討すべきである。仮にそれができないならば,その施設(美術館)は今回の複合化にふさわしくない施設であるということである。
以上を含む当法人が提出した意見の全文はデータからダウンロードいただけます。